「海外で起業後失敗。でもキャリアは積み上がった」エンジニアがベンチャー経営者に転身できた背景にあったのは20代のあくなき挑戦

作成日:2023年2月10日(金)
更新日:2023年2月15日(水)

みらいワークスがお届けする「プロフェッショナリズム」、今回のインタビューは江本州陽さん。大手電機メーカーへエンジニアとして入社後、インドネシアでの研修(留職※1)プログラムに参加。その後は海外での経験を生かし、なんと副業として自らインドネシアで事業を立ち上げました。

最終的に事業はうまくいかなかったそうですが、意外にもこれがキャリアアップのきっかけになったと言います。その後香料ベンチャーを立ち上げ、経営者として創業2年目ながら単年黒字化を達成。さらにフリーコンサルタントとしても活動を開始し、活躍の場を広げています。

「20代がむしゃらに挑戦して大変なこともあったけど、それが30代になって全部生きている」と語る江本さん。どんなチャレンジが今のキャリアにつながったのか、江本さんに詳しく伺いました。



江本 州陽

今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント

高専から大学・大学院まで一貫して情報工学を専攻。卒業後2013年に大手電機メーカーへ入社し、2年間ソフトウェア開発に従事。その後留職プログラムとしてインドネシアのNPOに参加し、ITコンサルティングを手掛ける。   留職をきっかけに個人活動を始め、インドネシア人と2人でバイクパーツのECサービス「REVOLTO」を起業。さらにアイデアソン・ハッカソン主催やJICA「Innovation Quest」プログラムにも取り組む。この経験を生かし、大手電機メーカーにおいても社内ベンチャー立ち上げプロジェクトやオーストラリアでの産官学連携プロジェクトに参画。   大手電機メーカーを退職後は、本格的に学生時代の仲間とフレグランステックベンチャー「ideal fashion」の経営に取り組む。現在は経営者でありながら、フリーランスのITコンサルタントとしても活動する。

江本 州陽

入社3年目の留職プログラムでいきなり海外NPOに参加、これが大きな転機に

インタビュー中 みらいワークスにて

江本さんは大学院卒業後に大手電機メーカーに入社されましたが、入社されたのはどんな動機ですか? 

 

江本さん(以下、敬称略):入ったきっかけは、学生の時に参加したインターンシップです。参加したのは、地元福岡から上京したかったから。実は学生時代に大道芸で知られるジャグリングにハマっていて、東京でジャグリングの武者修行をしたいけどお金がない。そんなときインターンシップを知って、これだ!と思いすぐ応募しました。

 

当時のインターンシップは日当も交通費も出て、しかも上京できる。正直参加したのはこんな理由でした。でもインターンシップで働いてみたらすごくいい会社だなと思い、就職しました。

 

当時の日本は「ものづくりで成功した国」という印象がものすごく強かった。ものづくりに携わっていれば生活に困らないという考えは、小さい頃からありましたね。あとは昔から「手に職をつけたい」と思っていて、高専から大学・大学院までずっとコンピューターサイエンスを専攻しました。

 

ものづくりに関われて勉強したことも生かせる。こういう意味で僕にすごく合っていた会社だったと思います。

 

入社後、現在のキャリアに大きく影響したのはどんなプロジェクトでしたか? 

 

江本:一番は、留職プログラムですね。入社後はソフトウェアの開発を担当していましたが、3年目の研修で、留職の話を聞きまして。インドに留職で行って、高い成果を上げた先輩がいたんです。もともと自分が海外でどこまで通用するか試したいと思っていたので、迷わず留職プログラムに応募しました。

 

留職プログラムではどんなお仕事をされていたのでしょうか?

 

江本:インドネシアの障がい者就労支援をするNPOに約4か月間入りました。仕事は簡単に言うとITコンサルで、彼らが作ったサイトの開発やセキュリティ強化に関わりました。所属企業とは関連のない団体だったので、知り合いはゼロ。一番大変だったのはコミュニケーションですね。相手も僕もつたない英語でやりとりをするので、ミスコミュニケーションがたくさんありました。言葉も環境も違いましたが、すごく面白くて。この体験が後のキャリアに大きく影響したと思います。

インドネシアでの事業は失敗したが、むしろ個人仕事のオファーが増えた

REVOLTO活動内容 cofounderとの議論

留職プログラムから戻った後は、どんなお仕事をされていたのでしょうか? 

 

江本:留職は素晴らしい体験ができるプログラムです。だから留職したからには、なんとか成果を出して会社に恩返ししたかった。でも留職から戻った直後は、当然ですが留職とは直接つながりのない仕事でした。どうしたら留職の成果を出せるか考えた時、新しい事業や起業をしないとダメなのでは、と思ったんです。

 

そこで本業とは別に、留職で知り合ったインドネシア人と一緒に新しいことをしよう!と思い立ちまして。彼はインドネシアの大学に勤めていて、スタートアップ支援機関のマネージャーでした。当時の僕は成果を出したいと必死になっていて、相方のインドネシア人に大量の事業アイデアをとにかく送りまくっていました。

 

その事業アイデアは実現しましたか? 

 

江本:僕が送った大量のアイデアは採用されませんでしたが、インドネシアでバイクパーツのECサービスを立ち上げることになりました。当時のインドネシアは、約2億の人口に対してバイクが1億台もあるような国。コンビニみたいに、街中にバイクのメンテナンスショップがあったんです。

 

バイクが急増する中、リテラシーが追い付いていないのが問題でした。実際バイクに合わないパーツを装着してしまい、事故になることがよくあったんです。例えばホンダの50ccバイクにヤマハ250cc用のパーツをつけてしまうみたいな。

 

だからどのバイクにどのパーツが合うか、わかるアプリがあったらいいんじゃないかな?と言う話になりました。事故も防げるし、バイクショップのリテラシー向上にもつながる。そこで「REVOLTO」という名前で事業を立ち上げ、僕は主に事業開発・4カ国を跨いだアプリ開発の統括を担当しました。

 

海外での起業となると、想定外のことも多かったのではないでしょうか?

 

江本:人って全然思い通りに動かないことを実感しました。例えば僕が3か月以内に開発できるものを依頼しても、全然進まない。なぜかというと、日本人とインドネシア人は仕事に対する考え方が全然違うから。インドネシアの人たちは家族や宗教の優先順位が高くて、それから自分の時間や趣味があり、その後に仕事がくる感じなんです。

 

文化の違いに直面して、この状況でどう会社をドライブすればいいか悩みました。結局気づいたのは、彼らがやりたいことをやらせないとダメだということ。「やりたいことをやる」これがいかに大切かを痛感しました。そういう意味で、すごく僕自身成長できたと思います。

 

この事業はどのくらい続いたのでしょうか?

 

江本:2年間くらいかな。結局最後は会社がバーンアウトしまして。やはり社会課題は一緒と言うか、僕らが開発している間に、他の会社が同じコンセプトのアプリを出してきたんです。その会社は何億もの出資を受ける規模だったので、僕らは太刀打ちできませんでした。

 

事業が失敗してしまい、落ち込みました。でも事業がダメになっても、僕はちゃんと生きている。本業があったこともあるけれど、この失敗が自分のキャリアにとってプラスになりました。

 

興味深いですね。具体的にどのようなキャリアにつながったのでしょうか?

 

江本:「REVOLTO」はそれなりの評価は受けていて、実はオーストラリアのファンドが実施したコンペにノミネートされたこともありました。そういう評価のおかげで、「REVOLTO」がダメになった後もインドネシアの大学でメンターをやらせてもらったり、シンガポール国立大学の大きなコンペにも招待してもらったり。いろいろなところから声がかかったんですよ。

 

事業がダメになっても、むしろキャリアとしては伸びた。しんどいこともあったけれど、やってよかったなと思いました。

JICA参加など会社の枠を超えた個人活動が、さらに知見とスキルを広げる

JICA Innovation Quest受賞の様子

 

キャリアが伸びたとのことですが、本業とは別に個人の活動も増えましたか? 

 

江本:そうですね。留職って実はいろいろな企業で若手社員の研修として導入されていて、留職を通じて社外の仲間も増えました。そこで仲間と一緒に、アイデアソン・ハッカソンを主催したこともあります。

 

あと面白かったのは、JICAのオープンイノベーションプログラム「JICA Innovation Quest」。これはJICAの若手が立ち上げたプロジェクトで、組織の枠にとらわれないオープンイノベーションの実現を目指し、異業種の多様な人材を募り、“共創”から新しい国際協力のアイデア創出を目指す革新的な試みです。これもNPO法人クロスフィールズ代表の小沼大地さんが「江本ってやつがアイデアソンに詳しいよ」って紹介してくれたんです。

 

JICAの参加者と僕のような一般参加者がチームを組み、「SDGsゴール2(飢餓・食・栄養・持続可能な農業等)」をテーマに新興国(タジキスタン)の課題解決アイデアを練りました。僕のチームはコンペで優勝したんですよ。

 

どんなアイデアだったのでしょうか?

 

江本:中央アジアにあるタジキスタンという国は、2人に1人が生活習慣病という課題があり、原因を調べたら油の取り過ぎでした。タジキスタンの伝統料理って、油をものすごく使うんですよ。WHO基準の数倍の油を摂取していて、しかも油の質があまりよくない。そこで油をカットできるオイルカットプレートを思いつきました。

 

それとタジキスタンという国はお祭りや結婚式などが盛んで、おもてなし文化が強いんです。この文化も取り入れたくて、単なるオイルカットプレートではなくおもてなしにも使えるきれいな「映える皿」にしようという話になりました。

 

優勝後、現地でプロトタイピングするとなった時、折角だから日本の文化交流もできたら面白いかなと思ったんです。そこで茨城の笠間焼共同組合理事長の大津さんと仲良くなってプロトタイプをお願いしました。そうしたらきれいな映え皿を作ってくれて、現地に持っていったらものすごく受けたんですよ。

 

プロジェクト化されたのは大きな成果ですね。JICAのプログラムを通じて、江本さんご自身で得たものはありましたか?

 

江本:多種多様な仲間と出会えたことが大きくて、他チーム含めてメンバーとはその後もつながりがあります。今思うと僕のチームは距離感がちょうどよかった。本業が忙しい場合は、手が空いたら再開する等、個々人の社会人としてのリテラシーが高い所が良かったです。

 

一方でやる気があるときは好きにやる。他のメンバーみんながやりたい人をサポートするように動いていました。無理強いしないことと、やりたいことを否定しないで、応援すること。これが大切だということに気づかされました。

 

江本さんは本業も多忙な中、個人でもさまざまな活動を行っていますね。なぜそこまで行動力があるのでしょうか? 

 

江本:とにかく必死で、責任感だけで動いていた気がします。あとは留職プログラムに参加した人たちがすごく優秀だったので、一緒なら何かすごいことができる気がしたんです。

 

さらに優れた人たちとつながれば、僕もいろいろ学べてレベルアップできるかも?という魂胆も実はありました。

挑戦を続けた実績が本業にもつながり、やりたいプロジェクトへ参画できた

タジク式映え皿 タジキスタンでのメディア取材にて

本業では、その後どんなキャリアを積まれたのでしょうか? 

 

江本:社内ベンチャーを立ち上げる話が出たとき、起業経験があったおかげでプロジェクトに参画できました。社内ベンチャーの仕組み作りから関わることができ、15人くらいの開発チームの取りまとめを任されたんです。REVOLTO事業の立ち上げやアイデアソン・ハッカソンなど、社外で得た経験がすごく役に立ちました。

 

このプロジェクトではどんな成果がありましたか?

 

江本:大手ホールディングス企業さんと共同でヘルスケアサービスを立ち上げることができました。0→1で事業を立ち上げて商用化までできた事に加えて、事業開発・コンサルティングスキルを学べたことが大きな成果ですね。

 

プロジェクトを統括する立場のボスが、外資系コンサルティング会社でパートナークラスのコンサルタント経験者で、彼からプロのコンサルタントとしての働き方や知見を学ぶことができました。今思えばすごくラッキーで、今の僕があるのは、そのボスの存在が大きかったです。

 

さらにオーストラリアのプロジェクトにも参画したそうですね。 

 

江本:実はオーストラリアの研究所の所長とFacebookを通じて親しくなっていたんです。ある時所長が「最近江本くん活躍しているらしいね。ちょっとオーストラリアに来て手伝ってよ」と誘ってくれました。最初日本にいる役員から「お前にできるわけがない」と言われましたが、何度も説得して現地に行きました。

 

このプロジェクトでは、ハッカソンなどスタートアップのエコシステム形成支援に取り組みました。すごく面白かったんですが、途中でコロナ禍になり現地に行けなくなったことが残念でした。

 

会社を経営しながらフリーコンサルタントとしても活躍、その秘訣とは?

香料会社にて作成したつくばの香り

 

その後、「IT×フレグランス」の会社を起業されています。起業のきっかけは何でしたか?

 

江本:テクノロジーを活用してオーダーメイドの香水を作る「ideal fashion」という会社を立ち上げたのですが、サークルの後輩が起業のきっかけです。調香師をしている後輩から「独立したいけれど経営が全然わからない」と相談されまして。そこで起業経験のある僕が、経営を担うことになりました。

 

会社を経営する上で、どんなことを意識していますか?

 

江本:意識していることは2つあって、1つは「メンバーにやりたいことだけやらせる」ということ。これはインドネシアでの経験が大きいですね。人ってやりたいことしかできないし、他のことやらせるとパフォーマンスがガクっと落ちてしまう。メンバーみんながやりたいことをやることが、会社の成長に欠かせないと考えています。

 

もうひとつは「選択と集中」。僕も含め他の仕事を持っているメンバーもいますし、少数精鋭で会社を回すには効率を上げる必要があります。成果の出ている案件とそうでない案件の分析をしたところ、やはり卸売が強いことがわかりました。またメンバーが得意な案件とそうでない案件も分析してみました。すると大企業や決裁者まで遠い案件より、小規模でも決裁者や経営者が直接依頼してくれる案件のほうがフィットしていることがわかりました。これを踏まえて案件を集中させたら、ビュンって売上が伸びました。

 

大手電機メーカーを退職された後は、会社経営とあわせてフリーコンサルタントとしても活動されています。フリーランスでのお仕事はこれまでと大きく違いますか?

 

江本:客先に常駐する働き方は初めてだったので、最初は感覚をつかむのが難しかったですね。フリーコンサルはあくまで外部の人間。だから信頼関係を築く必要があると感じました。例えばあるクライアントでは営業力強化が必要と感じたので、最初にメソドロジー(※2)を作ってみたんです。これがすごく受けて、おかげさまでクライアントと信頼関係ができました。

 

「プロとして自分の経験や強みをどう生かすか?」と言う点も、フリーのコンサルには大事だと思いました。僕はアイデアソンとか社内の若手を盛り上げる活動経験があったので、そこを生かそうと。あるクライアントのケースでは、若手の意見を聞く場を設けるよう提案しました。

 

前職の時から、現場の声を吸い上げてトップのやりたいことと繋げることが組織改善に重要なのは知っていました。でも今はコロナ禍で、リモートが増えています。そうなると管理職は若手の意見を聞く機会が少ない。2年以上この状態なので、管理職は現場の課題がわからないわけです。実際に若手の意見を聞く場を設けたら、現場の課題やパッションあふれるコメントがすごい勢いで出てきたんです。おかげでクライアントにとても喜ばれました。

 

これまで以上にプロとしての役割が求められるわけですね。江本さんにとって「プロとしてのふるまい」とはどんなものですか? 

 

江本:2つありますね。まずはクライアントの要望に対してしっかり結果を出せること。プロの野球選手もサッカー選手も、結果を出すために高額な年俸をもらえるわけですから。

 

2つ目はクライアントに気づきを与えること。クライアントのニーズを掘り起こすと、意外と違う課題があることは多いですね。あるクライアントでは、最初にDX推進や地方創生の新規事業をやりたいと伺っていました。しかしよく話を聞いてみると、「営業1人当たりの稼ぎに限界を感じている」という課題が見えてきたんです。そこで単価を上げるために、まず営業のコンサル力強化が必要というお話をしました。

 

クライアント自身も気づいていないことに気付きを与えて、ハンドリングできるのがプロだと思います。

 

なるほど。どんどんキャリアの幅を広げる江本さんですが、今後の目標をお聞かせいただけますか?

 

江本:会社経営としては順調に売上が伸びているし、「メンバーを裕福にしたい」という当初の目標は達成できました。だから今後はフリーコンサルタントとしてのキャリアを伸ばしたいですね。

 

フリーコンサルタントとして、特に伸ばしたいスキルはありますか? 

 

江本:具体的なスキルはまだ見えていません。ただ自分の市場価値をもっと上げて、高単価で難易度の高い案件をやりたいと思っています。社内外で0から会社と事業を立ち上げた経験、実際に経営して成功させていることが強みです。1年で単年黒字化できているし、今後の成長も見えている。実は日本で初めて香料会社で、Microsoftのアクセラレーションプログラムに採択された会社なんですよ。こういう実績を生かせたらいいですね。

 

最後にこれからチャレンジしたいと考えている方に向けて、メッセージをお願いします。 

 

江本:失敗を恐れず、どんどん挑戦してほしいです!僕の場合、事業が失敗してもキャリアはむしろレベルアップしました。20代で挑戦したことが、今の30代になってすごく生きていると実感しています。自分にとってプラスしかないので、挑戦しないと損だと思いますよ。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

会社経営者として成功をおさめながら、フリーランスコンサルタントとしても着実に実績を上げている江本さん。この裏には、20代から常に新しい挑戦を続けてきたという姿勢がありました。

 

「国内か海外か?」「会社か個人か?」といった枠を超えて、若いうちに失敗を恐れずチャレンジできるか。これが将来のキャリアを大きく左右するポイントではないでしょうか。

 

※1 :留職とは
留職:企業に勤める人材が社会課題に取り組む国内外のNGO/スタートアップに数か月にわたって飛び込み、本業のスキルと経験を活かして社会課題の解決に挑むプログラム。

※2 :メソドロジーとは
日本語で「方法論」と言う意味。目的達成のためのメソッドがメインだが、それだけではなくコンセプトやツールなども網羅したシステムのこと。